大学で学んだ図書館情報学で食いっぱぐれずに済んでいる話
はじめに
この記事はklis Advent Calendar 2019の22日目の記事です。
この記事では「図書館情報学という学問が大学の外の世界でどのように活用できるか」というのをIT系の企業で働いている実体験込みでつらつら書いていこうかなと思います。
この記事の目的は図書館情報学を学んでいる学生の方や、図書館情報学にちょっと興味のある方に対して、ちょっとお先に社会に出ている立場から「(司書にならなくても!)図書館情報学は社会で役に立つので頑張って学んでください!」という応援をすることです。*1
この記事の最後に、学問一般を学ぶことの意義にもちょっと触れてます。
何者?
簡単に自己紹介しておきたいと思います。
自分は2011年に入学したklis11の卒業生で、卒業後5年くらい立った社会人です。(大学院含めると社会人歴3年くらい)
大学院卒業後は新卒でデータ解析職として人材系の会社に入社して、現在はEコマース的な会社でサービスの改善や構築などの仕事をしてます。
本業と並行して副業で複数企業のコンサルやスタートアップのサービス立ち上げ支援などしつつ日々を過ごしております。
そんなこんなで食いっぱぐれずに日々を過ごしています。
大学〜社会人まで振り返り
図書館情報学との出会い:世の中のこと全部知りたい!司書になりたい!
自分は大学選びのタイミングで、自分が本当に学びたいこと(もしくは好きなこと)を考える機会がありました。
そのタイミングで自分は「本を読むこと=新たな知識を得ることが好き」ということに改めて気付き、当時様々なキーワードでググりながらwikipediaの図書館情報学のページを見つけたのでした。
このページは当時の私をとてもワクワクさせました。
この学問を勉強していけば「色々な知識(なんなら世の中の全ての知識)を得たい」という欲求に一つの回答を出せるのではないかという期待が膨らんでいったのでした。
知識そのものを学問でき、しかも将来的に司書になって本に囲まれながら働けるかもという淡い期待のもと図書館情報学を学べる大学に入学を決意するのでした。
図書館情報学を学べる大学
このブログで紹介したら誰かに怒られそうではありますが、日本で図書館情報学を学べる大学というのはそこそこ限られており、その一つが筑波大学の情報学群 知識情報・図書館学類です。
調べるうちにここでならがっつり図書館情報学が学べそう、ということで入学することになりました。
何を学んで何を得たか
図書館情報学を学ぶ中で得られた一番の気付きは「知識や情報、そしてそれに関わる人々の活動は何らかの形でモデルとして捉えることができる」ということです。
一言で言ってしまっているので少々難しいですが、言い換えると、情報とか知識というものがどんなものかを色々な方法で考えることができて、さらにそれらを取り巻く人々や社会の活動もどんなものか色々な方法で考えることができるということです。
こうした気付きは様々な授業での学び、一緒に学んだ学友(?)、先生方とのやりとりの中で徐々に得られていったものです。
別の関わり方をすればまた違った気付きとなったと思います。
まあ、以上の話はちょっと抽象的なので、どんな授業でどんな気付きを得て今に生きているのかについては後に具体的にお話します。
大学院へ
大学院では今の仕事につながるエンジニアという職業と出会いました。
授業等で最低限のプログラミングができたので、エンジニアのインターンに参加できてそこで出会いのきっかけを得ることができました。
そこから大学院での研究をしつつ、プログラミングの勉強を本格的に始めました。
大学院ではpixivをはじめとして数社にインターンに行ったり。
シンガポールで強制送還の危機に瀕したり。
色々とわちゃわちゃした生活を送っていたように思います。
学んだことをどのように活用しているか
ここからは、具体的な授業名も出しつつ、そこでの学びからどんなことを考えその考えが今どのように生きているのかというのをつらつら書いていこうかなと思います。
実際に何を学ぶのかというのはこちらのシラバスを参考にしていただけると良いかと思います。
ちなみに自分は「知識科学主専攻」でした。
今はもうやってない授業とかもあるみたいですが印象深かった授業などをメモっていきます。
レポートの書き方とか学ぶklisで最初に受ける授業 ← 名前忘れた(!)
基礎的なドキュメントの技術や学問を学ぶ方法などを学ぶ授業。
なんかレポートの採点がめちゃくちゃ厳しくてしんどかった記憶があります。
とはいえ、この授業では情報に関する色々な視点が散りばめられており、小さな発見がたくさんありました。
何の回で出てきたか忘れましたが、ヴァネヴァー・ブッシュのMemex論文調べさせられたり、世界中の情報の総流通量とか計算してみたりとかあったような気がします。
「なるほど、世の中にある情報や知識はとんでもない量であり、もうそれを人間の労働力を使って扱うのは到底不可能なのだな」という実感が湧いたような気がします。
この授業で得た基本的なドキュメントコミュニケーションの能力は社会に出ても役立ってます。
プログラミング演習
ちなみに自分は仕事でPythonめちゃくちゃ使います。(悲しいことにRubyよりも)
「人間にできないことをいかにパソコンにやらせるか」ということを学びました。
自然言語処理を扱う授業 ← 名前忘れた(!)
おそらく自然言語処理そのものの授業ではないけれど形態素解析のプログラムを初めて触った授業でした。
MeCabという文を自動で単語に分割してくれるプログラムに初めて触れて、大量の文章を分析するのがこんなに楽しいことなのかという感動を覚えました。
形態素解析をはじめとして言語処理技術は今の仕事でも非常によく使う中心的な技術です。
文章を機械で表現可能な形にすること(もしくは数学の抽象空間で扱えるようにすること)ができるという気付きを得ました。
知識発見基礎論
結構独特な授業で印象深かったです。
「どのように新たなアイディアが生まれてくるのか」といった内容を学術的に紐解く授業でした。
会社でアイディアフルな会議(ブレストなど)を行う際には、ここで学んだ基礎が役立ちます。
データベース概説
極論を言ってしまうと世の中の大半のシステムは「データベース」と「それをなんとかするもの」によって構成されています。
世の中のシステムのほとんどはデータベースを扱っているため、ここで学んだ基礎を応用することで様々なアプリケーションを作ることができます。
経営・組織論
こちらも独特な授業でよく覚えています。
生きていく際はいつでも組織と接しています。
会社もまさしく組織で、その組織についてどのように考えることができるのかという知識は、社会人として生きていく上でめちゃくちゃ役に立ちます。
なんなら、社会人少しやった今、もう一度受けたい授業です。
情報行動論
結構ハードな授業でしたが、得るものも大きかったです。
情報を探すユーザーがどのように目的の情報を得て満足するかといったその過程をモデリングすることの意義や、どのようにユーザーとシステムの関わりを捉えるかについて気付きの多い授業でした。
まさしく自分が仕事として取り組んでいる「ユーザーが欲しい商品と出会うためにどのような改善を行えば良いか」という課題を考える際のベースとなっています。
ちなみに、大学院のものになってしまいますが同教員による同内容の授業ノートは今でも取り出せるところにあります。(以下のような感じ)
中国図書学
今、シラバスに載ってないですね。涙
とても好きな授業でした。
この授業では「漢書という非常に難しい物体から、いかにして重要な情報(書誌事項)を抜き出して記録するか」を学びましたが、ここでの学びは「物体からメタデータを取り出すということの実際と難しさ」です。
メタデータに関する授業は他にもあったと思いますが、この思考は現在ECサイトで働くなで「どの商品にどんな情報を持たせるか」という点でも非常に役立っています。
インターンシップ
klisではインターンシップが単位として認定されますね。
自分は某県立図書館に2週間くらいのインターンに行きました。
大学の授業で学んだスキル(例えば分類法とかレファレンスとかカタログとか)が実務でまざまざと使われていて、しかも授業で出てきたデータベースなどが実際に役立っているのを見て「なるほど、授業の内容はマジで重要だ。」と思ったのを覚えています。
が、同時に司書の仕事が自分に向いていないと思ってしまったのでした。(ここで進路変更*2
ちなみに、理論と実践の架け橋をどのようにかけるかという気付きはこのインターンで得られた1つの知見です。
その他
上には書いていませんが、図書館に関する種々の事業はもちろんとても楽しかったし多くの気付きがありました。
例えば図書館の建築について学ぶ「図書館建築論」や読書が幼児期の成長にどのように影響を与えるかなどを扱う「読書と豊かな人間性」などは今でも印象に残っています。
今は仕事で確率・統計やデータサイエンス等の知識をめっちゃ使いますが、正直学部で学んでいた時はいまいちイメージしずらくあんまり理解していませんでした。(!)
またシステムやアルゴリズムに関する知識も実際は社会人になってからきちんと学び始めた感があります。(!)
数学についてはちょいちょい頑張って勉強してはいましたが、今思うとこれらの授業も真面目に取り組んでおけば土台ができて良かったなと思っています。
蔵書検索システム作る授業(名前忘れた)は、システム開発の楽しさを知ることができたかもしれません。
図書館情報学は就職や転職にも役立つ
さて、ここまで実際に今の業務でもめちゃくちゃ役立っていることをみてきましたが、図書館情報学を学んでいるということ自体が就職や転職にも役立つのです。
実は、転職時にオファーをもらったとある企業のフィードバックで、以下のような文言をもらったりしました。
他にもヘッドハンターからのメールでたまに「図書館情報学に関する知識をお持ちの・・・」といった連絡をいただいたりします。*3
という感じで、きちんと学べば食いっぱぐれずに済みます。
学問から新たな視点や思考の基礎が得られる
学問をマジで学んで得られる一つの果実は「その学問の持つ世界の捉え方」を知ることだと思います。
図書館情報学は、「情報」や「知識」という捉えようのないとはいえ重要そうなものが存在するとして、それらは人々の豊かな生活のためにめちゃくちゃ重要なので、きちんと理解して今よりもよりよく扱うためにはどうすれば良いかを考える ということだと思っています。(私の解釈なので、まったく正確ではありませんので注意。)
こうした視点を身に付けられればかなり広範囲に応用することができます。
表面的なスキルは短期間でも 身に付けられるが・・・
最後に、ちょっとおまけ的な話です。
プログラミングとかデータサイエンスとかをそこそこ学んで、それらをスキルとして前面に押し出せば、正直な話、昨今の世の中ではそこそこ良い給料で働くことはできると思います。
しかし、そのスキルの背景に「どんな世界の捉え方をしているか」というのが、実は様々な物事に取り組む上で重要になってくるのではないかと思ってます。
例えば、最適化を学んでいる人は、現実世界の様々な課題を数式として扱える形に落とし込んで膨大な数のアルゴリズムの中から最適なものを用いて解決しています。
これは単にプログラミングができる人とは全く違ったスキルです。
例えば、社会科学を学んでいる人は社会を適切にモデリングすることによって複雑に見える現象を分かりやすく説明するためのモデルを考え出し、多くの人の社会現象への理解を助けることができます。
これもまた単にアンケートのデータ集計ができるという人とは一線を画します。
学問を学んで身に付けた見方、考え方、スキルがあるからこそ、その人にしかできない発見や課題解決などができるのではないかと思います。
私が楽しくそしてより良く働けている*4のはこうした背景があるからかなと思ったりしています*5。
様々な大学の様々な学部ではこうした特有な世界の捉え方を知ったり、身に付けたりできますが図書館情報学はその中でも特に重要な「情報」に関する根本的な見方を身に付けられる学問です。
こんなに楽しい学問をがっつり学ばないのは非常に勿体無いですね!
おわりに
さらっと書くつもりが、予想以上に長くなってしまいました。
当時を振り返って書いていたら、やっぱりこの学問めっちゃ好きだなということが再確認できました。
今はインダストリーにいますが、学問の方にも何らか貢献できるように頑張っていきたいなと思いました。
でわでわ。